Vo. 21 (マリカー その2)

平成30年(ネ)第10081号 知的財産高等裁判所 不正競争行為差止等請求控訴事件

原審・東京地方裁判所 平成29年(ワ)第6293号

 

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提供役務:公道カートレンタルサービス

 

任天堂文字表示

 

東京地裁

知財高裁

被告標章と対比した任天堂文字表示

マリカー

マリオカート

   or

MARIO KART

                      

 

1.結論

 

東京地裁

知財高裁

日本語サイト・チラシ

侵害

侵害

外国語サイト・チラシ

非侵害

侵害

根拠条文

1号(混同のおそれあり)

2号(著名商標と類似)

 ※1号・2号とは不正競争防止法第1条1項1号・2号を意味する

 

2.概要

東京地裁は、外国人にとって略称「マリカー」が周知ではないとして、外国語ウェブサイト等での侵害を認めなかった。これに対して、控訴審である知財高裁は、著名な任天堂文字表示「MARIO KART」が被告標章「MariCar」等と類似すると認定した。本件のゴーカート事業(「マリオ」等のキャラクターがカートに乗車するもの)を踏まえると、被告標章の「Mari」から「Mario」を想起し「マリオの車」の観念が生じる結果、任天堂文字表示の「マリオのカート」の観念と類似とした。また、称呼及び外観については、一定程度似ていると認定した。以上から、任天堂文字表示と被告標章とは類似と判断した。

 

また、被告は、ウェブサイトや本件レンタル事業の利用者が署名する英語の誓約書等に「株式会社マリカーは,ゲーム『マリオカート』とは無関係です。」等の出所混同の打ち消し表示を行っていたが、東京地裁はこの打ち消し表示による混同のおそれの解消を認めなかった。理由は、以下のとおり。

 

任天堂文字表示と被告標章とが同一であったり、類似のものも類似度が高い

・被告標章が様々な態様で使用されており、打ち消し表示と常に一体として使用されるとは限らない

・公道カートの車体の打ち消し表示が小さい上、同カートを公道上で目撃する需要者が直ちに認識できるものではない

 

なお、被告は「マリカー」の商標権を有しているが、東京地裁及び知財高裁のいずれでも、登録商標使用の抗弁は認められなかった。周知又は著名な任天堂の「マリカー」及び「MARIO KART」が持つ顧客吸引力を不当に利用しようとする意図をもって本件商標権取得したものと推認することができるという理由であった。

 

3.コメント

原審の東京地裁控訴審知財高裁との判断の大きな違いは、外国語のウェブサイト等の使用を不正競争と認定したか否かである。「マリカー」が日本国内の需要者に周知であることは、東京地裁知財高裁も認定している。一方、「マリカー」は国外需要者にとっては周知でなく、この点が任天堂及び裁判所を悩ましたところであろう。被告のカートレンタルサービスの需要者の大半が外国人観光客なので、任天堂にとって、外国語ウェブサイト等を差止できなければ問題解決にならなかったと推測される。

 

東京地裁任天堂主張のとおり素直にマリカー」のみを被告標章と比較した一方で、知財高裁は「MARIO KART」を被告標章と比較するというアイディアを打ち出してきた。その結果、外国語ウェブサイト等の使用を不正競争と認定することに成功しており、なかなか頓智のきいた裁判官である。観念類似の理由も単に文字面を対比するのではなく取引の実情を考慮した実質的なものであった。

 

とはいえ、称呼については、「まり」及び「かー」が共通であり、「まり」は印象に残りやすい語頭であることから、「一定程度似ている」と認定されているが、「類似」とは認定されていない。個人的には外国人の発音方法を認定して対比してほしかった。外国人は日本人と違って全ての文字を平坦に発音せず抑揚をつけて発音するため、「まぁーりぃぁ」「かぁー」(太字に強いアクセント)といった具合に発音される。実際に何人かの外国人が話しているのを筆者はYouTubeで見たが、上記のように「O」は曖昧に発音され「あ」又は「う」のような音が若干聞こえる程度であり、「T」についてはほとんど発音されていない。そうすると、「MariCar」とかなり紛らわしく聞こえるので称呼類似ともいえる。

 

打ち消し表示についての判断は参考になるものであり、打ち消し表示があっても商標の類似度合いや便乗感が高い場合には、混同が打ち消される認定とはなりにくそうだ。なお、知財高裁では、2号で処理したため、混同の要件が不要として一蹴されている。

 

登録商標使用の抗弁も一蹴されているが、特許庁の審査では登録になり、異議申立に対する決定でも登録維持となったのに本判決でこの結果であるため、被告からすると「何を信じればいいのだ」と思うかもしれない。しかし、かなり危ない橋であったことは明らかであり、最終的に裁判官がどう判断するかも含めて代理人はアドバイスすべきである。もしかしたら、被告は、そういったアドバイスを受けつつも、最終的に損害賠償を支払っても充分利益が出ると考え、ビジネス的観点で続行したのかもしれない。

 

任天堂としては、「マリカー」を先に商標登録しておけば交渉がスムーズに運んだ可能性もあるが、被告の会社設立前に出願された「マリカー」の商標権を被告は譲り受けており、任天堂が被告のレンタル事業を知った後では手遅れであったことが推測される。また、正式名称でもなく積極的に使用していない略称を本業と全く異なる事業(役務)についてまでこのような事態が起こる前から想定し商標登録しておくのは困難であるし、不使用取消や権利濫用となるリスクもある。訴訟提起が報道されることによって被告のサービスが任天堂と無関係と世間に知らしめることができたし、任天堂の請求も殆ど認められたため、任天堂としては目的を達成したものと思われる。

 

オタマル マリカー 商標 著作権 不正競争 岡村