Vol.25 (SIX PAD)

平成29年(ワ)第5108号意匠権侵害差止等請求事件 大阪地裁

 

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物品「トレーニング機器」

 

1.結論

被告商品が原告(MTG)の登録意匠と非類似であるとして、原告の主張は棄却された。

 

2.概要

意匠法と不正競争防止法とで、「類似」について異なる判断がなされた。意匠権侵害の判断において、広義の誤認混同のおそれは意匠法が規律するところではない旨が示された。つまり、原則どおり、「美感が異なるか否か」という基準に基づいて意匠の類否が判断された。意匠の類否判断の詳細な説明は割愛する。

 

3.コメント

被告商品の実施は、登録意匠の実施と認められた。この点では、被告が意匠登録したメリットがあったといえる。

 

一方、別事件では、不正競争防止法2条1項1号に基づいて、被告MTGは被告商品の差し止めが認められた。具体的にいうと、MTGによる同号に基づく仮処分命令の申立に対して、東京地裁及び知財高裁は、MTG商品の形態の周知性、被告商品の形態との類似性、両製品の混同のおそれを全て認めた(平成30年(ラ)10008号保全抗告申立事件:知財高裁)。

 

意匠法と不正競争防止法とで、「類似」の考え方が違うのは当然だが、その確認ができた点で本判決は意義がある。MTGは本事件の訴えの提起と上記不正競争防止法に基づく事件の申立を同時期に行っているように伺える。両方提起することのメリットを以下に示す。

 

(a)差止の可能性が増える

2つの法律では要件が異なるため、どちらかで侵害でなくともどちらかで侵害となり得る。本件及び別事件の判断のとおり、美感が共通しなくても、不正競争防止法上は侵害となり得る。「類似」の考え方が異なるためである。とはいえ、不正競争防止法には「周知性」及び「混同のおそれ」の要件もある。類似性が認められたとしても、仮に、地域(商圏)の違いや混同の打ち消しの表示等により、混同のおそれが無いと判断されれば不正競争防止法上侵害ではなくなる。逆に、意匠法では混同のおそれの要件がない分、類似性が認められれば侵害となる。

 

どちらの方が差止しやすいとは一概にいえず、状況による。武器は多いに越したことはないので、両法に基づくMTGの差止請求は効果的な対応であるといえる。

 

(b)損害額が増える

基本的には(a)のとおりであるが、異なる点として、両方で侵害が認められれば、侵害の根拠が異なるため、より多くの損害賠償を獲得できる。

Vol. 24(MONTAGNE.)

平成30年(行ケ)第10035号知的財産高等裁判所判決)

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MONTAGNE. MONTAIGNE

第18類

かばん類、ハンドバッグ等


1.外観と称呼が紛らわしいとして、商標が類似すると判断された(商標法4条1項11号)。


2.概要
特許庁の異議申立において、商標登録取消決定がなされた。これに対して商標権者が審決取消訴訟を起こしたが、特許庁の判断は覆らなかった。裁判所の判断は、概ね以下のとおり。

 

(1)外観

両商標は、「.」「I」を除いて、同じアルファベットを同じ順序で並んでいる。また、「.」、「I」及び書体の相違点については、以下の理由で看者の印象に残りにくい。したがって、両商標は外観が相紛らわしい。

 

「.」は末尾に付され小さい

「I」は6文字目で他の文字より幅がかなり狭い

書体は普通に用いられるもの


(2)称呼

両商標は、ローマ字読み及びフランス語風読みの称呼が生じる。「モンタグネ」と「モンタイグネ」は、全体の語調及び語感が近似したものとなる。また、「モンターニュ」と「モンテーニュ」は、全体の語調、語感が著しく近似したものとなる。したがって、称呼も相紛らわしい。


(3)観念

両商標には異なる意味がある。しかし、需要者が一般にフランス語を理解するといえないため、需要者は、両商標を観念のない造語と理解する。したがって、観念は比較できない。


3.コメント
文字商標の外観が「相紛らわしい」と判断された。一般的に、文字商標における外観は、称呼や観念の補助的な要素と扱われ、「近似した印象を与える」という程度の判断しか示されないことが多い。本件は、文字商標において、外観単独での類似性が肯定された点で参考になる。

また、称呼が類似でも(同一ですら)、商標全体として非類似という審決例及び裁判例が近年増えてきた一方で、本件では称呼類似に基づいて商標全体の類似性が肯定された。この点は、実務において注意すべきである。

さらに、称呼の認定についておもしろい判断がなされた。需要者はフランス語の意味を理解できないとしつつも、称呼についてはフランス語風のものも生じると認定された。アパレル業界では、フランス語由来の商標の使用が普通に知られているから、Champagneなどの綴りと発音の一般的知識を手掛かりに、フランス語風の称呼も生じる、という理由である。

 

 

AI vs 弁理士 出場者解説

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AI vs 弁理士の記事のとおり、AIと第3ステージで戦いました。今更ですが、忘れないうちに振り返りたいと思います。

 

商標実務に詳しくない方もいらっしゃると思いますので、まずは、識別力についての解説をし、その後、対決結果及び回答に至った経緯を解説し、最後に感想を述べます。

 

 1.識別力の解説

識別力の正確な定義は長くて難しいですが、ざっくりいうと「特定のブランドだと認識させる力」とご理解ください。例えば、商品「Tシャツ」について、以下のような企業名や商品名と認識できるようなものは「識別力有り」となります。

 

   ユニクロ  HEAT TECH  

 

逆にいうと、商品の製造地・機能・ジャンル等(まとめて「性質」と呼びます)を示す商標は「識別力なし」となります。例えば、商品「Tシャツ」について、以下のようなものは識別力がありません。

 

    CHINA         保温性抜群   casual

 

このような言葉を見ても、消費者は「中国製のTシャツ」、「保温性の高いTシャツ」、「カジュアルなタイプのTシャツ」のように思うだけです。言いかえると、企業名や商品名のようなブランドと認識(識別)できません。このような言葉は「識別力がない」として商標登録されません。

 

ここで重要なのは、商標「casual」は、商品「文房具」についてであれば識別力があるということです。商標は、商品(又はサービス)とセットで考えるため、商品によって識別力の有り無しが変わります。

 

なお、「靴下屋」のように特定の会社が長年使用する等によりブランドとして有名になった場合、例外的に識別力有りとなります。

 

識別力の判断基準・手法について興味のある方は、長くなるのでこの記事をご覧ください。この記事のとおり、普段は審査例等の過去の判断例を調べて識別力の有無を判断します。しかし、今回のAIとの対決では、答えバレを防ぐため、過去の判断例を調べてはいけないという制限がありました。また、時間の制約もあったため、そこが苦労した点です。

 

2.対決結果等

 (1)ルール
・10個の商標(10問)について識別力の有無を回答する
・1問1分で回答する
・審査官が拒絶理由を通知したかどうかが正否の基準となる
・正解数の多い方が勝利
 
※識別力無しという拒絶理由通知に対して、反論すれば覆って商標登録されることは多々ありますが、今回のイベントのルールは、あくまでも拒絶理由の通知があったかどうかでした。

 

 (2)準備
1問1分という短い時間で素早く検討するため、回答の準備として、以下の各種サイトを開いていました。

 

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商標が商品の性質を表す言葉かどうかを検討するために、言葉の意味を正確に調べる必要があります。このため、各種ウェブ上の辞書を開いていました。英和、国語、仏和及び伊和の辞書です。なぜフランス語やイタリア語のも開いてかというと、アパレルではフランス語やイタリア語由来の言葉があり、例えば、「gilet」は、フランス語でベストを意味しますので識別力無しと判断されます(事前にアパレル分野の商品のみの問題が出題されると聞いていました。)。
 
また、商標の構成文字の使用例も結論に大きく影響するので、Google検索サイトを開いていました。「アパレル AAA」や「ファッション BBB」のように検索するために「アパレル」及び「ファッション」を予めGoogle検索サイトで検索した画面も開いていました。
 

その他、名字ランキングを調べるサイトも開いていました。佐藤やsuzuki等のありふれた名字(ローマ字表記含む)も識別力無しとして登録できないところ、「ありふれているかどうか」を検討するために開いていました。

 

  (3)結果及び解説
以下の商品について識別力が有るか?(全問共通)
 
被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊靴,運動用特殊衣服(第25類)

 

1.Mexican

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                 引き分け

 

これは言うまでもありませんが、メキシコ製の被服等と認識できるため、識別力無しと回答しました。両者、余裕の正解です。

 

2.メッシュ美人帽

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               AIの勝ち

 

やってしまいました。感覚に基づくと、「メッシュ」から「メッシュ製の商品」と理解でき、「美人帽」は意味が良くわからないという印象でした。使用例を調べると、以下のように「小顔美人帽」や「襟足美人帽」等が複数出てきました。

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「美人に見せる帽子」のような意味で「美人帽」や「美人帽子」の使用例が多数ヒットしました。しかし、多くの情報は出所が同じだったので、実質的にはせいぜい3、4件の使用例と思った記憶があります。そのうちの2件が「小顔美人帽」及び「襟足美人帽」という「美人帽」単独の使用例ではありませんでした。また、いずれの使用例も性質を表すのか商品名なのかが不明確でした。
 
一方、単独の使用例でなくても審査官が拒絶理由を通知することはあるので、拒絶理由は来るかもなと思い、識別力無しと回答しました。
 
さすがにこれは考え過ぎでした。

 

3.ほっと安心帽

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               岡村の勝ち

 

初見で「また帽子?ひっかけ?」と感じました。
 
感覚的に「ほっと安心できるような帽子」の意味が想起されると思いましたが、漠然としている印象でした。Google検索で使用例を見ると「ほっと安心帽Ⓡ」という情報が見つかりました。「Ⓡ」は商標登録されている場合に使用されるため、「登録なってんな~」と思いました。しかし、今回のルールでは、拒絶理由通知が来ていれば最終的に登録になっていても「識別力無し」が正解。
 
そこで複数ページを見ましたが、「ほっと安心帽」を使っているのは、どれも同じ会社の商品(「Ⓡ」付き)のように見えました。「安心帽」を調べても「ほっと安心帽」の情報ばかり出てきました。ですので、「ほっと安心帽」は商品の性質を表す語として一般的でないと考え、識別力有りと回答しました。

 

4.ダブル盛

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               岡村の勝ち

 

第一印象では意味がわからなかったような気がします。しかし、題意を考えると「なんか匂う」感じはしました。「ダブル盛」をGoogleで検索すると、ラーメンかなんかの飲食店の情報が多数出てきたのを覚えています。その後「ダブル盛 ファッション」のように検索し、下着の使用例が出てきたため、最終的に以下のように検索しました。

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すると、様々な下着販売サイトで「ダブル盛」又は「ダブル盛り」が「ブラジャー」について「胸が盛れる」ことを訴求する言葉として使用されていました。このため、識別力無しと回答しました。これは自信がありました。

 

5.ふわふかスリッパ

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               AIの勝ち

 

感覚的に「ふかふかした感触のスリッパ」だと思いました。一方、「ふかふか」ってソファーに使うけどスリッパに使わないかも、とも思いました。そこで、使用例を調べると、予想に反して、スリッパの性質を訴求するため「ふかふか」が多数使用されていました。
 
これに加え、「ふかふかスリッパ」自体の使用例も複数あったように記憶しています。ですので、これも自信をもって識別力無しと回答しました。
 
でも不正解。これはおかしいなぁ。と思いJ-PlatPatで調べると、なんと…
 
ふわふかスリッパ
 
でした。やられました。問題を見直しても「ふわふか」でした。この解説書いてる今の今まで気づきませんでした。「ふわふか」なら、識別力有りそうですね。調べてないけど。普段仕事ではこういう思い込みや誤入力を防ぐために、必ずコピペしているのですが、この時は何故しなかったのか、、やはり練習でやっていないことを試合でやるとミスりますね。

 

6.わたしのぼうし

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               引き分け

 

「わたしの」という表現は漠然としていて、帽子の性質と無関係な印象を受けました。「わたしのぼうし」や「わたしの帽子」、「わたし 帽子」等の使用例もあまりなかった気がしますが、詳細はあんまり覚えていません。色々調べた上で、帽子の性質といえる情報が発見されなかったため、識別力有りと回答した記憶があります。

 

7.快頭ずきん

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               引き分け

 

「快適な頭を保てるずきん」の意味が考えられると思いました。しかし、「快頭」の表現は普通じゃないと予測しました。そこで、「快頭」を国語辞書で調べましたが、一致する情報は見つかりませんでした。Google検索でも特に「快頭」は、確立した言葉でないという考えに至り、識別力有りと回答しました。これは自信ありました。

 

8.ヤンバルクイナ

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                         引き分け

 

一見して商品と何の関係もなさそうですが、問題になっているということは何かあるだろうと思いました。そして、「ヤンバルクイナの革で作られた服」も考えられると思い、使用例を調べました。以下のように、「”ヤンバルクイナ製”」に色々な言葉を組み合わせて検索しました。

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 いくら探しても「ヤンバルクイナ製」のアパレル系商品は全く見つからないので、さすがに大丈夫だろうと思い、識別力有りと回答しました。
 
が、何と不正解!拒絶理由通知を見ると、概ね以下の判断内容が記載されていました。
 
ヤンバルクイナ」をデザインした商品が広く取り扱われている実情があるため、需要者は、「ヤンバルクイナ」に関連した商品であることを認識するにとどまり、「ヤンバルクイナ」は識別力が無い。
 
以下は、審査官が挙げた使用例の1つです。

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衝撃的でした。僕は数千件単位の調査及び出願を経験してきて、その過程で数々の審査例、審決例及び判決例を見てきましたが、このような判断例を見たことがありません。これを言い出すと、動物や食べ物、家具、家電等、Tシャツのデザインとして存在し得る言葉全てが登録にならないということになってしまいます(しかし、実際このような言葉の登録例は多数あります)。

 

以上言い訳でした。勉強不足であったことは否めません。

 

上記の使用例における「ヤンバルクイナ」は識別力がないと思います。一方、例えば、タグや下げ札への「ヤンバルクイナ」の表示は識別力があるでしょう。このように、商標の使用の仕方によって、識別力の有無が変わる場合があります。審査官としては識別力のない使用の仕方に注目し、一旦拒絶したのかもしれません。この拒絶理由に対して意見書が提出されています。おそらく反論が認められ、本件商標は登録になるでしょう。この場合、他社が「ヤンバルクイナ」を「Tシャツ」に使用した場合、タグや下げ札への表示等の商標的な使用は商標権侵害となると思いますが、上記審査官の挙げた使用に対して商標権侵害とはならないでしょう。

 

 

9.DIAMONDHEAD

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                         引き分け

 

恥ずかしながら、山の名前とは即座にわかりませんでした。「聞いたことあるけど地名だったかな」とか思いながら、調べているとハワイにある有名な山の名前だとわかりました。過去に有名な山の名前の出願を代理し最終的に登録になったものの、拒絶理由が来た経験がありました。また、審査基準か審査便覧に照らしても、拒絶理由は来るだろうと思いました。このため、識別力無しと回答しました。

 

10.発電下駄

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               AIの勝ち

 

始め、「発電可能な下駄?そんなんあんのか?」と思いました。そこで使用例を調べました。「発電下駄」自体の使用例を調べたかどうかを何故か覚えていないのですが、Googleで「”発電可能” ”下駄”」では使用例が見つからず、「”発電可能” ”靴”」の使用例が多数発見されたのをハッキリ記憶しています。それらのサイトでは、「歩いて発電できる靴」等を意味する言葉として使用されていました。「靴」の性質として「発電」は識別力無しだと考え、「下駄」も同じだと思い、識別力無しと回答しました。
 
ところが、不正解。


 J-PlatPatで調べると、「発電下駄」は2008年に登録されたものでした。当時と現在とでは、取引の実情(技術や言葉の使用状況)が異なるため、現在も同一の結果になるとは言えません。「発電靴」も同時に同じ人によって登録されていますが、「発電杖」は2010年に拒絶され、「発電インソール」は2016年に拒絶されています。これらの審査例に上記の使用例を考慮すると、現在「発電下駄」を出願すれば拒絶理由を受ける可能性が高いでしょう。

 

合計

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               AIの勝ち

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合計すると惨敗に終わりました。残念!

 

3.感想

同情的な意見もいただきましたが、負けは負けです。第2ステージ及び第3ステージの合計点でなんとか総合優勝できて、正直「助かった~」と思いました。


正解不正解について、拒絶理由が来るかどうかではなく最終的な判断結果とすべきという声も聞きました。一理ありますが、拒絶理由を受けたくないクライアントもいるため、そういう顧客からの依頼だと考えれば、実務に則した問題設定だと言えます。
 
今後、弁理士がAIにとって代わられるかについては、AIの技術に詳しくないのでよくわかりません。とはいいつつ、結局決めるのは顧客だと思います。サービスの質の面で、顧客がAI>弁理士やAI≒弁理士と思っていればとって代わられるでしょう。AIの方が低価格という前提ですが。
 
個人的には、弁理士同士のレベルも違うし、AIも提供者によってレベルが違うでしょうから、弁理士かAIの二者択一にしてほしくはないです。何よりも、優秀なAIがいるなら、審決や判決についてディスカッションしてみたいです!
 
今回のイベントを通して、1分間でもある程度の検討ができることに気づきました。この気づきを今後、商標サービスに活かせそうな気がしています。
 
最後に、色々大変でしたが、今回のイベントは非常に盛り上がってよかったです。次回は、観客席にてビールを飲みながら野次を飛ばしたいです!

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商標の識別力の判断基準・手法

 

商標の識別力が有るか無いかの判断基準はどこにあるのか、どのように識別力の有無を判断するのかを以下に解説します。

 

商品の製造地、機能、ジャンル等(以下、「性質」という」を表す言葉であっても、漠然とした表現や暗示的な表現であれば「識別力有り」となります。例えば、以下のように、「made in China」は明らかに識別力が無い一方で、「china made」は暗示的な表現であるとして「識別力有り」の可能性があります。

 

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ところで、商標の実務ではグレーなことが非常に多く、僕は上記の棒グラフのように捉えています。「made in China」のような簡単なものは実務上少なく、「china made」のような、グレーな商標の依頼を受けることが多いです(詳しく調べると上記矢印の位置も変動するかもしれません)。なお、「HOLLYWOOD MADE(不服2013-16023)」では、識別力無しとして拒絶されたものの、不服審判を請求して(2度反論して)やっと登録になっています。

 

実際、識別力の有無を判断する際には、大まかに言って、以下の2つを検討します。

 

(a)商標から商品の性質が想起されるか

(b)商標の表現が性質表示として暗示的か

 

a商標から商品の性質が想起されるか

商標から商品の性質が想起されなければ識別力があります。

 

例1

商品「洋服」について商標「ice」

「凍った洋服」は現実的に想定し難いため、(b)に進むまでもなく、識別力有りと言えそうです。

 

例2

商品「洋服」について商標「極暖」

「とても(極めて)暖かい洋服」は洋服の性質として一般的であり、当然想定されます。このため、(b)に進むことになります。

 
(b)商標の表現が性質表示として暗示的か
商標の表現が性質表示として暗示的(漠然としている)であれば識別力があります。以下、商品「洋服」について商標「極暖」を例にとって説明します。
 
極暖」、「極〇〇」、及び「〇〇暖」が普通がなのかどうかを検討します。この検討は、需要者としての感覚、辞書、使用例、審査例等の過去の判断例に基づいて行います。

 

この中で、特に使用例について、「極暖」という言葉が使用されているかどうかをGoogle等で検索し、検討します。また、言葉の使い方として、「極めて〇〇」のことを「極〇〇」と略するか、「暖かい」のことを「〇〇暖」と表すのかも検討します。次に、これらの言葉について、アパレル業界での使用状況も見ます。誰が使用しているかで使用例の重みは異なります。洋服メーカー、雑誌や新聞、ファッション系のネットの記事等は考慮されやすい一方、閲覧者の少ない個人のブログ等はあまり考慮されません。

 

過去の判断例も見る必要があります。感覚、辞書、使用例に基づく自分の見立てと異なる判断を審査官が下していることがあります。なので、過去の例を調べることは重要です。

 

以上のようなプロセスを経て識別力の有無を判断します。

 

AI vs 弁理士

今日、AIと戦います。将棋の電脳戦みたいな感じです。

 

http://tokyocultureculture.com/event/general/28501

 

軽く引き受けたが、120人とか観客がいいて大御所も来るらしい。緊張する〜

 

 

 

↑上の投稿後、イベント終わりに投稿しています。第1、第2ステージは弁理士が、AIに勝ち、僕は第3ステージ登壇しましたが、結果は惨敗。ただし、総合点ではAIと他の弁理士に勝ち、まさかの総合優勝!助かった〜

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Vol. 23 (TIMES)

 

不服2018-5578

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1.結論                                                                                    

本件商標が引用商標と類似すると判断された一方で、商品と役務が非類似と判断され、本件商標の登録が認められた(商標法4条1項11号非該当)。

          

2. 概要
ソフトウェアの用途及び需要者が異なり、販売部門及び生産部門が共通する事情もないとして非類似とされた。用途及び需要者について具体的に以下のとおり述べられていた。

 

本件商標のソフトウェア

引用商標のソフトウェア

用途

会社及び事業者等がデザイン・作画に用いる

カーナビゲーション装置用の地図情報等を提供する

需要者

広告制作や印刷を専門的に行う事業者

カーナビゲーション装置を組み込んだ車両に関連した自動車メーカー・運送事業者及び一般需要者

 

3.コメント
Vol.6
OASIS
)の記事でも願っていたとおり、長年、筆者は本件のような事例を待ちわびていた。この仕事を始めた時から、あらゆる分野のソフトウェアが類似と推定されていることに疑問があった。11C01の類似群コードが付されてしまっていることは仕方がないとしても、需要者が全く異なるソフトウェアについて、類似の推定が覆る事案があってもよいだろうと思っていた。なので、筆者は、本件審決を見て非常にテンションが上がっている。

 

実際、先行商標を理由に拒絶理由を受けた際に、ソフトウェアの分野が異なる旨の主張をして登録にならないかと、顧客から質問をされることが時々ある。その度に一応反論はできると伝えつつも、お勧めできるとまでは言えなかった。今後は、しっかりと本件審決を根拠として示し、反論を提案することができる。

 

とはいえ、現実的には、相変わらず一筋縄ではいかない。まず、本件のように不服審判までもつれる可能性はあるので、余分な費用と時間がかかるかもしれない。また、先行商標の指定商品は「○○用ソフトウェア」のように限定されておらず、上位概念の「電子応用機械器具」や「コンピュータソフトウェア」のようにされていることが多いため、そもそも、反論のステージに立てないことも多々ある。仮に、商品「電子応用機械器具」を指定する先行商標がAという分野のソフトウェアのみについて使用されていた場合、Bという分野のソフトウェアを指定する後願の出願人は、不使用取消審判を請求し、Aという分野のソフトウェア以外の電子応用機械器具を取り消す必要がある。これでやっと反論(A分野及びB分野のソフトウェアが非類似という主張)のステージに立てる。その上で、反論が認められなければ拒絶査定を受け、不服審判にて再度反論するという手順になる。気の遠くなる話である。制度的に何とかしてほしいものだ。

 商標 審決 判決 商品類否 ソフトウェア プログラム

Written in English英語版はこちら

ガァジラ vs グァジラ

 

久しぶりのコラム。今回は、ある判決を題材にして、自由に書きたいことを書いてみる。

 

真面目過ぎる人間というのは、時として無茶な事を言うものだ。例えば、この事件のように。

 

平成29年(行ケ)第10214号 審決取消請求事件(無効審判の請求不成立に対する取消訴訟

 

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ゴジラの商標 vs いわゆるパロディ商標の争いであり、パロディ側の敗北で終わった(4条1項15号該当)。争点はいくつかあるが、読み方が紛らわしいかどうかの裁判所の判断に注目したい。

 

ちょっとベタな感じになるが、裁判所の認定(見解)に対して一つずつ、ツッコンでいきたいと思う。

 

裁判所の認定『引用商標の語頭音は,英語の発音において,「ゴ」と「ガ」の中間音としても称呼され,現に大ヒットした映画「シン・ゴジラ」でも,「ゴ」と「ガ」の中間音として称呼されていたものである。』

 

→いやそれ石原さとみのやつ!

 

あろうことか、裁判所はシン・ゴジラ石原さとみが言ってた「ゴァジィーラ」を参考にした。確かに石原さとみは言ってたけど、あれ日系アメリカ人役やし…他の日本人全員「ゴジラ」としか言ってなかったのに何故そうなる?!石原のフアンなのか?

 

裁判所の認定『そして,我が国において,本件商標の商標登録出願時,引用商標の英語の発音による称呼も一般化していたものであるから,引用商標の語頭音の「ゴ」は,「ゴ」と「ガ」の中間音としても称呼されるものである。』

 

→いや、されるわけがない!我が国において!

 

アメリカ人の発音で考えれば「GO」の音は「gɑ́」の発音記号の音になることがあるようだが、これを正確に読める日本人なんて圧倒的少数だろう。しかも読める人でも普通は読まない。日常会話で「ゴァジィーラ」とか言ったら浮くから!!

 

本件商標の商品は「草刈機」を含む「農業用機械器具」等であり、仮にホームセンターで店員に「ゴァジィーラの草刈機ありますか?」なんて聞こうもんなら、「え?ゴアジイ?」と通じず、「当店にはそのような商品の取り扱いはございません。」と言われるのがオチであろう。相当めんどくさい客なこと間違いなし。

 

裁判所の認定『本件商標は,「グジラ」又は「ガジラ」と称呼され,語頭音は「グ」と「ガ」の中間音としても称呼されるものである。』

 

→英語にそんな音無くない?!!例えば「GUAVA(グァバ)」や「GUATEMALA(グァテマラ)」的なこと!?これらの単語は「GU」の後「A」が来てるからそうなるけど、本件商標「GUZZILLA」は「GU」の後「Z」なんで全然違う。我田引水がスゴイわ!

 

裁判所の認定『本件商標と引用商標の称呼を対比すると,語頭音を除く称呼は「ジラ」と共通する。』

 

→いやそこは日本語発音なんかい。語頭を「ゴ」と「ガ」の中間音で読むなら、全部英語読みで、「ゴァジィーラ」にしてよ!「ゴァジラ」て。違和感しかないわ!!「ゴァ」で上げきったテンションを「ジラ」で急激に下げなければならない恐怖。実際にやってみるとわかるが、至難の業でしかない!3のつく数字と3の倍数だけアホになるネタの感じになる。

 

裁判所の認定『本件商標における「グ」と「ガ」の中間音と,引用商標における「ゴ」と「ガ」の中間音とは,いずれも子音を共通にし,母音も近似する。

 したがって,本件商標と引用商標とは,称呼において相紛らわしいものというべきである。』

 

→もはや、何と何を比べてるのかわかりゃあしない。グガゴガ!

 

裁判官は、判決文を書きながら、実際に「ガァジラ」と「グァジラ」を読み比べたりしたのだろうか。シュール過ぎるわ!

 

この裁判官にとっては、映画「シン・ゴジラ」ではなく、映画「シン・ゴァジラ」となる。もしこの裁判官が友人等に「シンゴジラ見た?」と聞かれれば「シンゴァジラ」見たよと答えるのであろう。いや、んなわけなかろう!

 

…と、まぁこんな感じだ。あまりにも一般的感覚からかけ離れた解釈!コント感が否めない!バイキングの小峠あたりにツッコんでほしい。